君は、いつだって無茶をするから。

recesses


「そうですね・・・では、こうしたらどうでしょう?」

司令室を覗いてみると、なにやら皆で集まって話し合いをしていた。
その中に、総士の姿。
色素の薄い長い髪が、暗い中で一層目立つ。
形のよい唇からは、作戦内容が淀みなく紡ぎだされていた。
大人たちの中で、大人と同じように仕事をこなして。
忘れてしまいそうになる。
彼が、自分と同い年の少年だということを。

昔から総士は自信家で、また、行動派だった。
いろいろなことを提案しては、実行する。
そしてその大半は彼の思惑通りにことが運ぶから皆からも信頼され、いつの間にかリーダーのような存在になっていた。
実際、指揮官というのは彼によく合っていると思う。
冷静で、的確に。
そして、それをやってのける能力。
天賦の才。
神から与えられた、彼の武器。

彼の武器はあまりに強い。
その、盾すら貫く武器に皆、目を奪われて。
気付かない。
その武器を操っているのは、防具を一切身に纏わない、生身の少年だということに。

どうやら話し合いは終わったらしい。
ばらばらと人の輪が崩れていく。
皆持ち場につくなか、一人だけ、入り口に向かってくる者がいた。

「一騎。」
「・・・総士。」
「どうしたんだ、なんで、こんなとこに。」
「・・・なんとなく。」
「そうか。」
「・・・なぁ。」
「ん?」
「あ・・・いや・・・」

彼の、左目。
そこに走る、傷。
湧き上がる、罪悪感。
いつも、何も出来ずにその場を去ってしまう。
今回も、そうなるはずだった。
けれど。

「一騎、暇か?」
「あ、ああ・・・」
「休憩室に、なんか、飲みに行かないか?」
「・・・いく。」

彼からの、誘い。
それを断る理由なんて、ない。

休憩室は、誰もいなくてがらんとしていた。
紙コップを片手に、総士と並んで座る。
彼の正面に座ることは正直気まずかったし、それを彼が咎めることもなかった。
だから自然と、いつもこうして座る形になっていた。

沈黙。
それがつらくて、隣を見やる。
彼はコップの端に口をつけて、中身を飲むでもなく、そうしていた。
視線はどこか遠くを見ていて。
その横顔が、あまりにも脆く、儚いものに思えた。

「・・・総士。」
「何。」

呼び止めなきゃいけないような気が、した。
君が、どこかに行ってしまいそうだったから。

ああ、そうだ。
君は決して強くなんてなかった。
君は、悲しみも、怒りも、痛みも、すべてその仮面の下に押し隠して。
吐き出すことを知らぬまま、限界まで走ってしまう。
隠していることにすら気付いていないから。
限界まで、走れてしまう。
ただ、それだけのこと。
君も、同じ人間で、同じ15歳だということを、なんで忘れていたのだろうか。
君が、今、どんなに無茶をしているのか。
そのことに、どうして早く気付けなかったのだろう。

「無理して、ないか?」
「何だ、突然。」

コップを口から放して、こっちを見る。
グレイの、瞳。
その奥に、揺れるもの。

「総士・・・あれから、家、帰ってないんだろう?」
「・・・ここのほうが落ち着くから。」
「本当に?」
「・・・そうだ。」

目を、伏せて。
床を見る。
それは、彼が嘘をつく時の、癖。

「親父さんが亡くなって・・・」
「・・・」
「総士、泣いてないだろ。」
「・・・だから?」

きつい、視線。
再び、彼はこちらを向いて。
拒絶。
でも、それは。

「ほらな、無理してる。」
「・・・無理なんて、してない。」
「じゃあ、なんで」

何で、そんな、辛そうな瞳をしているの?

「違うっ!僕は、そんな、無理なんかしてないっ!父さんが死んだのだって仕方がなかった!あの時はあれが最善だった!」
「総士。」
「だからっ、後悔なんて、父さんに向けるのは、感謝しかない!誇りに思うけどっ!悲しくなんか・・・っ」
「総士・・・。」
「・・・」

両の手で握った紙コップ。
中身が小刻みに揺れていた。
その上から、手を重ねて。
そっと紙コップを奪った。
それをテーブルの上に置いて。

「総士・・・無理しなくていいんだよ。」
「・・・」
「悲しいときは、悲しいって言っていいんだ。」
「・・・」
「もう、俺は。」

あの時みたいに。
逃げてちゃいけない。
それよりも、君を。

「逃げないから。」

受け止めてあげる。
そっと、肩に手を回して抱きしめた。
ふわりと、包み込むように。

「一騎・・・僕は・・・」
「総士が、したいようにすればいい。」
「でも・・・何をすればいいのか、わからない・・・」
「何でもいいんだよ。総士は、どうしたい?」

細いからだ。
この華奢な両肩に、どれだけの重みが乗っているのだろう。
君の代わりにはなれないけれど。
だからこそ、せめて。

「・・・じゃあ、しばらくこのままでいさせて・・・」
「わかった。」

小さな声。
君の、望み。
背中に、手が回された。

君は、いつも無茶ばかりする。
そのことに、気付けなくて、ごめん。
だって、君が、無茶をするから。

シャツを濡らすぬくもりが、愛しいと、思った。




2004.08.09
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