嫌いだ。

Dislike


「貴様と言うやつは〜!」
「おい、落ち着けって」
「お前は黙ってろ!」

毎度毎度繰り返される、やり取り。
半ば日常と化した叫び声が廊下に響く。
最初は通りすがりの人が驚くように足を止めていたが、今ではそんなことすらない。

「そんなこといわれても、俺にどうしようもないだろうが。」
「なんだと〜!」
「だーかーらー、落ち着け!アスラン!お前も煽るな!」

金髪の少年にアスランと呼ばれた少年は、大きくため息を吐く。
それが銀髪の少年の気に食わなかったのか、一層大きな声が響いた。
身体を乗り出して、今にも飛び掛ってきそうな様子だ。
それを必死に金髪の少年が押しとどめる。

「頼むよ、アスラン!これ以上こいつ煽られると、俺が困るんだよ!」
「だから、お前は黙ってろといっただろう!」
「落ち着け!頼むから、落ち着け!」

「・・・付き合ってられるか。」

しばらく金銀二人のやり取りを見ていたが、アスランは小さくそう呟くと背を向けて廊下を歩き出す。
後ろに響く声は無視して。

もはや士官学校の名物ともなったこの光景。
いつも銀髪の少年が、青い髪の少年に突っかかり、それを金髪の少年が必死に止めるという。
最初は茶々なんかも入っていたが、とばっちりが来るので最近では誰も止めない。

「学校って、どこでもこんなものなのかな・・・」

誰もいない教室。
はぁ、ともう一度深いため息をついて、アスランは窓の外を眺める。
月にいたときもここまで大げさではなかったものの、常に隣にトラブルメーカーがいたせいで毎日が大騒ぎだった。
懐かしい、大切な思い出。
それが色褪せることが怖く、同時に新しい思い出が出来ることが嬉しい。
悲しい思い出を忘れることは出来なくても、素直に感情を表に出せる空間がここだった。

空が、青い。
これが、作り物だということは知っている。
知っていても、とても綺麗なことには変わりなく。
その空に近づきたくて、窓の縁に腰をかける。
青に向けて手をぐっと伸ばした。

「何、やってんだ?」
「え、あ、うわぁっ!」
「お、おい!」

いきなりかけられた声に驚いてバランスを崩した。
慌ててぐっと窓枠を掴むが、重力には逆らえきれずに身体が外へ投げ出される。

落ちる!

しかし衝撃は頭ではなく、窓枠を掴んだ腕にきた。
足元に地面の感覚はなく、身体が宙吊りになっているのが分かる。
恐る恐る目を開けると

「おい、ぼーっとしているのにも程があるぞ!」

なんていう怒鳴り声とともに、空よりも鮮やかな青の瞳が飛び込んできたのだった。


「一体何をしているんだ!訳分からんことをやっているかと思えば、窓から落ちるし!ぼーっとしているならもっと安全なところでやれ!」

とりあえず地面にたたきつけられるという惨劇からは逃れることが出来たものの、窓をよじ登って一息ついたところで言われた台詞がこれだった。
そんなに怒鳴って喉がよく壊れないな、とアスランは明後日のことを考える。
助けられたことは事実で、彼の言葉から心配されていることくらいは分かるが。

「あんなところで声掛けられたら誰だって吃驚すると思うけど」
「何か言ったか!?」
「え、あ、いや・・・」

彼の神経を逆撫でするとすることもないだろう。
大体いつも、それを避けようとしているのだがうまくいかない。
それでもなんとかまぁ対応は出来ていたが、流石に今はちょっと混乱している。
これ以上怒鳴り声を聞かされるのは勘弁して欲しかった。

「それでも赤を着ているのか?優秀なんだろうが、貴様は!俺よりも成績がいいのになんて様だ!恥ずかしいとは思わないのか!」
「だから・・・」

本日3度目のため息を吐いた。
どうすれば彼を大人しく出来るのだろう。
しかも褒めているのか貶しているのか分からない台詞にどう返事を返せというのか。
ここまできてしまうと素直に感謝の言葉を述べることすら難しい。
毎度これに付き合っているディアッカのことを考えると頭が下がる思いだ。
彼も彼で、いろいろと突っかかってくるところもあるが、結構・・・いやかなり苦労人なのかもしれない。
もう少しディアッカのことを見直したほうが良さそうだ。

「そこでどうしてため息をつく!大体・・・」
「・・・」

立ち上がって、彼の横を通って教室のドアに向かう。
アスランは大人しそうに見えて、実際のところ堪忍袋の緒は短い。
もう、限界だった。

教室を出ようとして、まだイザークに礼を言っていないことに気が付いた。
借り一つ、つまりは今度彼に何か返せばすむということだが、それだけで済ませるほどには他人ではないし、最低限の礼儀だろう。
まだ何かわめいている彼のほうを振り返る。

「イザーク。」
「何だ!」
「・・・助かった。礼を言う。・・・ありがとう。」
「っ!」

何故か黙り込んでしまった、彼を置いて教室を出る。
顔が赤くなっていたようだが・・・多分、あれは怒鳴りすぎだろう。
血圧、高いんだろうか。
じゃあこのお礼には何か血圧の下がるものでも持っていくか。
そんなことをつらつらと考えていると、後ろのほうから大きな叫び声が飛んできた。

「貴様に礼を言われる筋合いなどないっ!貴様なんか、大嫌いだ!」
「あ〜、はいはい。」

せっかく人が素直に礼を述べたのに。
なんだってこう、突っかかってくるんだか。
・・・もう絶対、言ってやらないからな。

腕を掴んで引き上げてくれたとき、ものすごくほっとしただなんて。

掴まれた腕をさすって、呟いた。

「俺だって・・・嫌いだ。」



2004.08.20
Thanks 555hit!

本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース