忘却




忘れてしまっても、忘れられない思い出がある。

くしゅんっ!
冷たい風が吹いて、くしゃみが出た。
もう、11月。
長いように思える一年間も、あっという間に終わりになろうとしている。
この一年、何があったか。
いっぱいいっぱいいろいろなことがあったのに、あんまり覚えていない。
それは寂しいことだ、と思う。
もっと、もっと沢山楽しいことがあったはずなのに。
小さい喜びは、その場限りのものなんて。
そんな風に思いたくなかった。

くしゅん!

もうひとつ、くしゃみ。
そんなに寒くはないんだけれど。
でも、くしゃみが出るんだから、寒いんだろうか。

「大丈夫か?」

そんな風に、声をかけられて振り向くと、そこには幼馴染。
もう、物心ついたときには一緒にいて。
いつも、一緒。
でも今日は、たまたま一緒に帰れなくて久々の一人の帰り道だった。
だから、驚くと同時に、とても嬉しかった。
それだけで、周りの温度か一気に上がったように感じる。

「うん、大丈夫。」
「本当?寒くない?」
「大丈夫だよ。一騎が来てくれたから、あったかい。」
「よかった。でも、風邪引かないでね。」
「引かないよ。」

二人、並んで一緒に帰る。
冷たい風が吹いたけれど、今度は、くしゃみは出なかった。
それは、隣にいる、一騎のお陰だと、そう思う。

「ねぇ、一騎。」
「何?」
「今年、どんなことがあったっけ?」
「ん〜、いろんなことがあったよね。」

次から次へ。
あんなことがあった、こんなことがあったと話は尽きない。
さっきまで、全然覚えていないような気がしていたのに。
ひとしきり話した後、一騎はもっといいことを思い出したらしい。
いたずらっぽい笑みを浮かべて話し始める。

「でも、今日はもっと楽しい思い出になるね。」
「・・・え?」
「え、総士、忘れちゃってたの?」
「え、今日なんかあったっけ?」
「え〜、俺はずっと楽しみにしてたんだよ?」

すっごくびっくりした、というような一騎の顔にちょっと焦る。
え、え、今日、なんかあったっけ?
今日は、何日?

「・・・あっ!!」
「総士、思い出した?」
「うん。ご、ごめんっ!僕何にも考えてなった!ど、どうしよう・・・」
「総士〜・・・でも、いいよっ!忘れてたんだからしょうがないよね。それより、早く帰ろうよ!母さんがケーキ作ってくれてるって!」
「本当!?」

一騎はいつの間にか走り出している。
それを追って走る。
けれど、足の速い一騎に追いつけなくて。
そしてたら、手を握られた。

「ほら、早くはやくっ!」

握られた手は、暖かくて。
どこまでも走れるような気がした。

実は、僕はこの後、一騎からどんなものを貰ったか覚えていない。
とてもいいことがあったと、とても楽しかったとぼんやりと思い出せるだけだ。
なのに、この、小学校の帰り道の会話は何よりも鮮明に思い出すことができる。
大切な、思い出。
そう、あの時、一番嬉しかったのは、貰ったプレゼントでも、ケーキでもなく、握ってくれた手の暖かさだった。
何よりも、君が傍にいることを感じられたから。

忘れてしまうことは、寂しいことだ。
けれど、大切なものは決して忘れないものだということも、知っているから。

「総士?」
「なんでもない。なんでもない日、おめでとう、かな。」
「・・・何でもない日じゃないだろう?」
「覚えてたのか?」
「それはこっちの台詞だよ。」

そういって笑いあう。
きっと、これも大切な思い出になっていくんだろう。
どんなに忘れてしまっても、忘れられない思い出がある。
だから、僕は、一つ一つ、丁寧に時を過ごしていこう。
少しでも、忘れられない思い出を作るために。





2007.05.30.






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