君が、誰よりも幸せでありますよう。

誰よりも、君を。


エターナルの中。
MS格納庫のすぐ近く、ちょっとした休憩室をも兼ねたそこに座っていた。
腕には、包帯。
痛むのは、心。
いろいろなことがありすぎて、何から解決していけばいいのか分からない。
けれど悩んでいる間にも確実に事態は進行してゆく。
それが戦争というものだと・・・理解しているつもりではあったけど。

「あら、こんなところにいらっしゃいましたの?」
「ラクス・・・」

背後に広がる、見事なピンクの髪。
意志の強い、水色の瞳。
プラントの歌姫。
ピンクの妖精。
そして、エターナルの戦女神。

「アスラン、腕は大丈夫ですか?」
「ええ・・・」

いたわる、優しい声。
彼女が一筋縄ではいかない、強かな女性であることは遅まきながら気付いたが、それでも優しいことには変わりがない。
荒んでいく現状の中でそれにどんなに救われたか。
親が決めた、婚約者。
それは、恋ではなかったかもしれないけれど。
尊敬し、親愛の情を持って守りたいと思ったことは確かだった。

「ラクス。」
「何ですか?」
「少し・・・お話したいことが。」
「まぁ、奇遇ですわね。私もお話したいことがありましたの。」

ふふっ、と軽く笑って。
彼女はいついかなるときにおいても、笑顔を絶やさない。
少なくとも、それ以外の表情を俺はあまり見たことがない。
その顔も、真剣な冷たささえ感じるくらいの迫力のある顔で。
彼女の弱いところなど・・・何一つ知らない。

「お先に、どうぞ。」
「あら、よろしいんですの?」
「ええ。今でなくても、話せることですから。」
「では遠慮なく。」

彼女は軽く目を閉じて、ひとつため息を小さく吐き出してから言葉をつむいだ。

「婚約が、解消されたようですわね。」

それは父から聞かされて、知っていた。
というより、ラクスに話したいということ、それ自体がこの話だったから。

「そのようですね。」

けれど実際その話をされると、声が、震えた。
思った以上にショックだったのかもしれない。
そして、その背後には後ろめたさも混在している。
父が、彼女の父親を殺してしまったのだから。

「ご存知でしたのね・・・。」
「ええ。先での対面で聞かされましたから。」
「そうですか・・・。」

話が、途切れた。
もしかしたら彼女も何を話していいのか分からないのかもしれなかった。
難しい問題だ。
お互いに自分たちで決めたことではなかったから。

「アスランのお話は、なんですの?」
「・・・同じこと、ですよ。」

MSの格納庫を見る。
調整されている、機体。
その斜め上に休憩室が見える。
数時間前の、彼女の様子が目に浮かんだ。

「何から話してよいのか分かりませんが・・・貴女と婚約関係にあったことは・・・嬉しく思います。」
「・・・」
「貴女は、俺を癒してくださいました。とても・・・」
「そんなことは・・・ありませんわ。」
「俺は、貴女に甘えてばかりいました。そして、貴女の本当の姿を見ようともしなかった。貴女は強い意志を秘めた、本当に強い女性なのに。」
「・・・」
「貴女が婚約者になったとき、俺は本当に驚きました。そして、受け入れてくださったときにも。」
「それは・・・」
「このまま結婚して家庭を築いてゆくのだと・・・そう思っていました。貴女の気持ちも無視して。」
「そんなことは・・・」

ちらりと、彼女の顔を見る。
伏し目がちに、床を見ていた。
ピンクの髪が広がっている。

「だから、解消されて、よかったと思っています。」
「・・・アスラン。」
「決して貴女が嫌いなわけではありません。尊敬していますし、何よりも守りたいと思ったことは事実ですから。」

彼女のほうに、今度はきちんと顔を向けた。
よかった、笑える。

「いい機会だと、思います。この世の中には、沢山の人がいます。戦争が終われば・・・きっといろいろな方々と触れ合う機会が増えるでしょう。ですから・・・」
「・・・」
「貴女に、ふさわしい方を見つけてください。」
「・・・」
「また、俺と会うこともあるでしょう。そして」

もし、貴女にふさわしい男が俺だと判断したのでしたら。

「そのときに、もう一度。」
「そのときに・・・」

ラクスは目を閉じると、顔を上げた。
柔らかく、美しい彼女の本当の笑顔を浮かべて。

「わかりましたわ。きっと素敵な方を私の隣に。」
「ええ。」
「アスランの、隣にも素敵な方が立っているとよろしいですわね。」
「そうですね。」

そして、もし、隣に立っているのがあなただったとしたら。
そのときには。

「よろしくお願いいたします。」
「ええ、こちらこそ。」

きっと、そんなことないと思うけれど。
彼女のあのときの様子を見れば、分かる。
彼女はもう、選んでしまった。

頬に柔らかな感触。

「おまじないですわ。貴方が幸せになりますよう。」
「・・・ありがとうございます。」
「貴方からも、してくださいます?」

彼女の額にキスを送った。
すべての思いを込めて。

貴女が、誰よりも幸せになりますよう。


今更、こんなことを言っても遅いけれど。
それとも今だから言えるのか。

「愛していました・・・」

互いの口から零れた小さな呟きは、空調の音に掻き消された。



2004.08.18




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