No Title...

「ねえ、どうしてだろうね」

そういって奴は俺のほうを向いた。
やっぱり気づいてやがった。
別に気配を隠していたわけでもなし、だからといって何もないのだが。
「……」
俺は何も答えずに、ただ先を促した。それをどうとったのかは知らない。
「何も感じないんだ。おかしいよね、求めていなかったわけじゃなかったはずなのに。やっと見つけたはずなのに」
平坦な声、表情を失った顔。
月明かりを反射する瞳も、ガラス玉のように冷たい。
そして、奴は繰り返す。
「ねえ、どうしてだろうね」と。
それは俺に、昔見たからくり仕掛けの人形を思い出させた。

奴は元々大きく感情を表に出すほうではない。だが面白いほど瞳は嘘を吐けなくて、冷たいと思うことはなかったと思う。素直で純朴。それが奴の印象だった。
そんな奴の姿にどれだけ救われたかわからない。面と向かって言ったことはないが。

なのに。

俺は自然と拳を握り締めていた。
もちろんそれはこいつを殴るためじゃない。
こいつにこんな表情をさせる無責任な一族と、何をしてやることもできない俺の不甲斐無さに向けた怒りだ。

心底、奴らが憎かった。



2009.11.27.
2010.09.15.



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