名残惜しげに口が離された。
少しの間をおいて空気が肺に大量に流れ込んでくる。
一緒に唾液も吸い込んでしまい、むせ返る。
唇から飲みきれなかった唾液が零れ落ちた。
頬をゆっくりと唾液が伝う。

その唾液をキラは舐め上げる。
少し濡れた感覚が気持ち悪くて左手でこすった。
右手は未だにキラの手の中にある。
むせたせいで喉の奥が詰まった感じがした。


「拭いたらもったいないでしょ。」

そんな言葉と一緒に左手すらをも掴まれて、右手と一緒に頭の上に纏め上げられた。
全く抵抗が出来ない体勢。
なんとも心もとなく感じるのは軍人生活が長かったからだろう。
彼の顔の向こうの明かりが眩しかった。


耳元に顔を寄せられる。
暖かい空気が耳朶を掠め、そのまま甘噛みされた。
敏感な部分を刺激されて思わず声が零れる。


その声にくすりと笑う気配がして、さらに舌を絡め、刺激を繰り返された。
なんともいえない痺れがその度に走り抜ける。
溜息とも喘ぎともつかない音が口から零れ落ちていく。


「ちょっ…キラ、やめ…」

たまらなくなって、止めるように声を上げた。
濡れた音と生暖かい舌の感触に気がおかしくなりそうだった。
しかし、その制止の声は男を止めるには不十分だった。


「往生際が悪いよアスラン。それに今、君、すごくイイ表情してるよ。これで止めろって言われても…」

説得力ないよ?と低く耳元で囁く。
その声にまた痺れが走る。
身を捩っても逃れられない。
執拗に耳を攻められて、痺れがだんだんと違う何かに変化していく。
体温が上昇し、呼吸が乱れる。


暖かなものが首筋を通って下のほうに降りて来た。
赤いジャケットの前がキラの手によって開かれる。
スタンドカラーのアンダー越しに鎖骨の近くを強く吸われた。
実際に触られるよりも生々しく、キラの行動が感じられる。
身体の中心に熱が集まっていく。


それを意識した瞬間、自分がどういう体勢なのかを再認識する。
広げている足を閉じようとしたが、間にキラの身体があってそれは不可能だった。
彼の身体を挟む形になり、密着度が増しただけだった。


「ずいぶんと積極的だね。…ああ、これは合意の上だったっけ。誘ってるの?」
「ん、なわけ、ないだろうっ!」
「そんな、照れなくってもいいのに。可愛いね、アスラン。」

人の話を全然聞いていない。
いつからそんなふてぶてしい性格になったのか。
確かに昔から我を通そうとすることは多かったけれど。
本格的に逃げようとするが、押さえつけられた手は全く動かない。


こちらのことなどお構いなしに彼の手がアンダーの中に侵入してくる。
少し冷たい手に肌が粟立つ。
上に上がってくる手とは反対に、顔が降りていき、布越しに尖った胸の突起を口に含まれた。
飴を舐めるように舌で弄ばれる。


「んぅ…」

思わず声が漏れる。
自分のとは到底思えない甘い声に、かぁっと顔が赤くなるのが自分でもわかった。


アンダーの隙間から、冷えた空気が流れ込んでくる。
キラの唾液を吸い込んだ布地が冷えて肌に張り付く。
いやらしい感覚に思わず身を震わせた。
周りの空気は冷たいのに、身体は燃えるように熱かった。


アンダーが胸の辺りまでたくし上げられた。
それ以上は腕が邪魔をして上げることは出来ない。
キラは一瞬逡巡する素振りを見せたが、結局俺の腕を離した。
上半身を抱き起こされる。


腕が自由になったのだ、そこから逃れることは出来ただろう。
だが、結局俺は彼のされるがままになっていた。
身体が熱を持って自由に動けない。
そう自分に言い聞かせて。
本当のことなんて自分が一番良く知っている。
それを認めるのが悔しいだけで。


ジャケットとアンダーが腕から外れて床の上にぱさりと落ちた。
寒さは不思議と感じなかった。
鳥肌を立てて全身が寒さを訴えているのに。
それよりも自分を震わせたのは、さっき脱がし損ねた彼の服の端だった。
ただでさえ敏感になっている肌に、触れるか触れないかの擽るような感覚は凶器に近い。
縋るものを求めてキラの首へと腕を回した。
彼の体温が伝わってくる。
心の奥から噴出す感情で腕にさらに力が入った。


結局、なんだかんだいってキラに抱かれることは自分の中で否定すべき事項ではないのだ。
それよりも離れるほうが恐ろしい。
一度彼を失ってしまったと思ったときの絶望が常に自分の意識に張り付いている。
もう二度と離れられない。
彼に依存して自分という存在がある。


自分がいきなりこういう行動に出たことが予想外だったのか、キラの動きが止まった。
しかし、それも一瞬のことで、すぐに次の行動に出る。


キラの手が首から背を通ってスラックスの中に侵入してくる。
そのまま場所を確認するように双丘のあたりを行き来して、前のほうに移動してきた。
下着越しに自分の中心を掴まれる。


「あ…っ」

敏感な部分を掴まれれば、制御できない快感が全身を襲う。
思い切り背を撓らせてそれに耐える。
それでも食いしばった歯の隙間から音が漏れた。


「そんな抑えようとしないで。大丈夫、外には漏れないから。でも、なんか勿体無いかな。」

優しい言葉と共に唇を舐められた。
僅かに口を開けば、そこから声が溢れ出る。
その全てを飲み込むように口付けをされた。
その優しさとは裏腹に、手はさらに激しく動く。


「ん、んんっ…」

苦しい。
酸欠と刺激とで。
頭に霞がかかり、一体自分が何をやっているのかわからなくなる。
この苦しみから解放を求めて、腕の中のものを掻き毟った。


「…ぁ、あああああっ!!」

ひゅっと軽い音が喉の奥で鳴って、それから自分でも信じられないくらいの大きな声が出た。
といってもそう声を出した、と頭の隅で感じただけに過ぎなかったが。
塞がれていた口を離されれば、酸素を求めて肺が思い切り空気を吸い込む。
それが限界だった。
張り詰めていた緊張が一気に弾けて、身体の熱も共に開放する。
耐え難い快感に身体が痙攣する。
目じりに溜まっていた涙が零れた。


「イっちゃった?そんなに良かったの?」

熱を開放してしまえば、急速に身体は冷めていく。
それと同時に思考も正常に働き始める。
冷静になった頭で、男の言葉を理解すると羞恥でいたたまれなくなる。
穴があったら入りたい、というのは正にこういう時だろう。
キラはじっとそんな俺の様子を見て笑っていた。


「可愛いなぁ、アスランは。でも、これで終わりなんて思ってないよね?今度は僕の番だよ。」
「え、ちょっ、ちょっと、キラ!」

スラックスを下着ごと脱がされて、上着の上に投げ出された。
とても寒い。
下の方は見ないように視線を逸らして、白い壁を見ていた。
崩れて散らばっている衣類の山が視界の隅に入って、ぎゅっと目を閉じる。
何もかもが恥ずかしい。


「目を閉じたって何にも変わらないよ。何にもね…」

俺に向かって言う、というより自分に言い聞かせるような色を持って、その言葉は耳に流れ込んできた。
目を開ければ、苦笑を浮かべているキラの顔。
どこか苦しそうに見えて、状況も忘れて彼を抱きしめた。
抱き返される、自分の身体。
そこに彼の熱いものを押し付けられる。
熱を開放したばかりの身体は、その僅かな刺激に反応を返した。
急速な体温の上昇。
慾が湧き上がる。


素直な身体の反応に、彼はさっきとは違う笑みを唇に乗せた。
そこから零れる息にも熱を感じる。
彼が自分の身体に慾を感じている。
それは酷く自分を満足させた。
羞恥にも勝る独占欲。
誰にも言えない、自分の業。


再び勢いを取り戻した中心に彼は手を伸ばす。
開放した熱の残りと新たな慾にそこは濡れていた。
その液を長い指が掬い取り、後ろの蕾へ塗られる。
本来の目的とは違う使われ方に、身体は拒絶反応を返す。


「ヒ、あ、あぁっ」
「我慢して、後で辛いのはアスランだよ。」

それは…知っていた。
けれど、我慢しろといわれても本能が拒絶するのだ。
なかなか慣れるものでもない。
自然、逃げ腰になるのは仕方のないことで。


「ちょっと足りないな。これ、舐めて。」

言葉と一緒に、綺麗な形の指が口腔内に入ってきた。
舌を絡ませる。
一度流されるともう駄目だ。
ただただ快楽を求める浅ましい男がいるだけ。
自分の体内にあったものを舐める、というのは激しい嫌悪感があって当然なのだが、もはやそれすら浮ばない。


もういいよ、と指を口から下の方へと動かす。
解すように柔らかく、優しく、しかし強さを持って中を掻き回された。
痛み、嫌悪感。快楽。全てが綯交ぜになって、身体を、精神を侵してゆく。


「もう、いいかな…?」

気付けば少なくない数の指が体内に入り込んでいた。
痛みはもう、ない。
指を抜かれると、安堵感より喪失感が残る。
無意識に動いていたらしい身体に、キラが小さな疑問を発した。


「ねぇ、アスランはこれが初めてなの…?」

その疑問に答える術を、持ち合わせていなかった。
沈黙を守ることで、答えを返す。
それだけで納得したようだった。
そう、と小さく呟くだけに止まり、次の行動へとでる。


軍服のスラックスのジッパーを開け、中から勃ち上がったキラ自身を取り出す。
目に入ったそれに、小さく身体が震えた。
その震えが一体何なのかは自分にも判断がつかなかった。


「あ、あああ、あ、く、ひあああっ!」

荒々しい、というのは正しい表現だと思う。
限界まで足を広げられ、彼を迎え入れる。
狭いそこに、許容量を超えたものが侵入してくるだけで辛いのに、それが配慮のないものであったなら尚更だ。
もちろんそれ以前に慣らされてはいるのだが。
彼の動きに容赦というものが感じられなかった。
その理由はわかりきったことなので、彼を責めるつもりはない。
むしろ、そのことに喜びを感じている自分がいる。


痛い。
彼のものを全て飲み込んで、感じるのは痛み。
彼も想像以上の狭さに苦痛を感じているようだった。
だが、そこに暗い快楽が潜んでいるのも確かで。
お互いに、場所は違えど同じものを感じていた。


彼が律動を開始する。さらに痛みが増して、意識が飛びそうになる。
それと同時に快楽が増す。
身体は快楽を求めて動き出す。
自ら誘うようにして、ただ、淫らな身体を曝していた。


「!」

自分の何かを、彼のものが掠った。
衝撃にも似た快感に、声にならない悲鳴を上げる。
それを彼が認識したのは一瞬後。
今度は的確にそこを突いてくる。
そうなれば、理性など微塵もない。
目からは涙が溢れ、唇からも唾液が流れるのもお構いなしに、声を上げる。
娼婦なんて比べ物にならないほどの淫らさで、彼を求め、快楽を貪った。


「あ、キラ、も、だめッ、ぁ、ああああっ!!」
「――っ」

これ以上にないほどの快感が全身を駆け巡って、思考がスパークする。
思わず彼を締め付ければ、限界だったのか、身体の奥で熱いものが溢れるのを感じる。
薄っすらと目を開けると、全身で感じている彼の表情が見えた。
上気した頬に、乱れた呼吸。なんて。なんていやらしい顔。
けれど、いつまでもずっとそれを見ていたい。


だが、意識は幾らも経たない内に暗黒に飲み込まれた。



は、と気付く。
一瞬、どこにいるのかわからなくて辺りを見回す。
飛び起きたつもりだったが、身体の動きは緩慢だった。
全身が重く、鈍痛がある。
部屋は明るく、しかし自分以外に他の誰も見えなかった。
寒い。
空気の冷たさに身体を震わせる。
何故、こんなにも寒いのか。
思わず抱いた自分の身体の感触が妙に生々しく、見下ろせば何も纏っていない生まれたままの自分の姿。
申し訳程度に赤いジャケットが掛かっている。


次第によみがえる記憶。
恥ずかしいとかそういう気持ちはあまり、ない。
ただそういうことがあった、と認識するだけだ。
いろんな意味で感覚が麻痺しているのかもしれない。
気だるい空気だけが自分を取り巻いていた。
その気だるさは性的に満足したからなのか、ただ単に無理が身体に響いているのか判らないが、悪いものではない。


このままでいるのもいい、だが現状がそれを許してくれるとも思えない。
仕方なしに、汚れている衣類を掻き集めて身につけた。
気持ちが悪いが、シャワーを浴びればすむこと。
早く気持ちを切り替える必要があるだろう。
今まで、何もなかったほうが奇跡に近いのだから。
これからのことを考えると溜息が出る。
全てを捨てられたら良かったのに。
もしくは力ずくでも全てを手に入れるように出来たら。
そのどちらもできず、未だに自分は迷っている。
全てを手に入れたいと望み、同時にそれをあきらめている。
曖昧で、そんな自分にはこんな格好が似合っているような気がした。
いっそのことこの格好で人前に出てやろうか。堂々と汚れた姿をさらけ出して、軽蔑されるのもいいかもしれない。
そんなこと出来ないのなんて百も承知の上で。


部屋から出ようとして、その前に入り口が開いた。
思わず身構えたが、入ってきたのはキラだった。


「気がついたみたいだね。良かった。」

もっとも僕がこんなこと言う権利なんてないんだけどね、と、それでもほっとしたように笑って、キラは両手を差し出す。
その上にあるのは新しい衣類。


「シャワー浴びてきなよ。とりあえず今はシャワールームに誰もいないよ。」
「ああ…」

服をキラから受け取る。
きちんと折りたたまれた衣類は、必要以上に清潔に見えた。
なんとなく気後れを感じて、キラの顔に視線を返す。


「会議がこの後あるみたい。そんなに急ぎのものではないらしいけど…」

キラは廊下の窓を振り返り、黒い外をちらりと見る。

「シャワーは早めに浴びといたほうがいいかも。」
「…そうするよ。」

返事をして、キラの傍らを通る。
彼の真横――入り口なのでとても狭い――で腕を掴まれた。
そのまま軽く啄ばむようなキスをされた。
一瞬目が合う。
だが、何の言葉も交わさずに別れた。
彼は自分の後姿をしばらく見ていたようだったが、自分とは逆の方向に床を蹴った。


さっき起きたことが嘘のような、他愛無い言葉。
いつもと同じ笑顔。
いつもと――少し違う仕草。


この後、きっと自分たちは何事もなかったかのように過ごすのだろう。
中身を少しずつ変化させながら。きっと、それでいいのだと思う。
壊れて、直して、支えて、支えられて。
きっと彼は気付いている。
そして自分も気付いた。
互いに抱えている闇を。
闇を抱えることは悪いことじゃない。
それも自分を、彼を、構成しているひとつだから。


心は不思議と静かだった。
あれほど揺れていた感情は、いつのまにか動きを止めている。
彼と自分とを確実に繋げる、何か。
それが得られたとわかったからだろうか。


それは、解決ではない。
これからも何度もぶつかるだろう。
あの激しく、昏い感情を忘れたわけでも、失くしたわけでもないのだから。


けれど。



溜息にも似た笑みを、ひとつ。

まっすぐに前を向いて生きていけそうな気が、した。

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